特別縁故者として相続財産の分与請求をすることにより遺産を取得することが可能です。
詳しく見て行きましょう。
●相続放棄の撤回はできない
まず,民法上相続放棄は撤回することができないと定められているため(民法919条1項),本件において相続放棄を撤回して遺産を取得することはできません。
●特別縁故者に対する相続財産の分与
特別縁故者に対する相続財産の分与は,相続人の不存在が確定し,なお相続財産が残った場合に,被相続人と生計を同じくしていた者,被相続人の療養看護に努めた者,その他被相続人と特別の縁故があった者に,相続財産を分与する制度です(民法958条の3)。
●相続放棄と特別縁故者
特別縁故者にあたる者としては,内縁配偶者や事実上の養子などが代表例とされています。
では,相続放棄をした相続人も特別縁故者として相続財産の分与請求をすることはできるのでしょうか。
結論としては,相続放棄をした相続人も特別縁故者として相続財産の分与請求をすることができるとされています(大阪高裁平成5年3月15日決定,広島高裁岡山支部平成18年7月20日決定,神戸家裁尼崎支部平成25年11月22日審判など)。
限定承認の潜脱行為ではないかという指摘もありますが,限定承認は手続が極めて煩雑ですし,「みなし譲渡課税」の問題があるため,限定承認の手続を選択することが合理的に期待できないことから許容されていると考えられます。
●特別縁故者に対する相続財産の分与の具体的請求方法
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対し,具体的事情を記載して申し立てます。
●民法255条との関係
民法255条は,共有者の1人が相続人なくして死亡した場合に,その共有持分は他の共有者に帰属すると定めています。
では,この民法255条と特別縁故者について定める民法958条の3の関係はどうなるのでしょう。
最高裁は,この2つの条文の関係について,共有持分も特別縁故者に対する財産分与の対象となり,この分与がなされないときは,民法255条により他の共有者に帰属するとしました(最高裁平成元年11月24日判決)。
そのため,本件の不動産が共有持分でも特別縁故者に対する相続財産の分与請求をすることができます。
相続放棄は,相続の開始があったことを知ってから3か月以内という短い期間内にする必要があります。
そのため,多額の保証債務があると分かったときに,すぐ相続放棄の手続を取ったことはやむを得ない判断であったと思います。
しかし,上記のとおり,相続放棄をした相続人であっても,特別縁故者として相続財産の分与請求をすることができるため,請求を諦める必要はありません。
将来的にやっぱり請求しておけばよかったと後悔しないよう諦める前に一度は弁護士に相談してみてください。